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札幌高等裁判所 昭和25年(う)324号 判決

控訴人 被告人 金京旭

弁護人 諸留嘉之助

検察官 小松不二雄関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

司法警察員佐藤末次郎の差押に係る別紙目録記載の物件(現に深川町農業協同組合において保管中のもの)はいづれもこれを没収する。

理由

弁護人諸留嘉之助の控訴趣意は別紙記載のとおりである。

原判決挙示の証拠によると、被告人が焼酎を製造する目的を以て政府の免許を受けないで、先ず(一)昭和二十四年一月二十六日頃肩書自宅において米一石一斗米麹五斗位水若干を原料として十数個の樽に仕込み、これを醗酵させて醪四石一斗を製造し、次いで(二)同年二月十三日頃同所において、右醪のうち一石六斗を蒸餾して焼酎三斗五合を製造したことを認めるに足りるから、右(一)の醪の製造行為は右(二)の焼酎製造行為中に包含されるものと解するを相当とする。従つて、右(一)、(二)は刑法第四十五条前段の併合罪でなく、焼酎製造の一罪を構成するものといわなくてはならない、(大審院大正七年(れ)第四三号同年三月十八日宣告判決参照)然るに、原判決はその挙示の証拠により、被告人が政府の免許を受けないで、その住居において、(一)昭和二十四年一月二十六日頃四斗樽十一本を容器として米一石一斗米麹五斗位水若干を原料として仕込み醗酵させて濁酒四石一斗を製造し、(二)同年二月十三日頃右濁酒中一石六斗を蒸餾して焼酎三斗五合を製造した事実を認定し、右(一)、(二)の罪を刑法第四十五条前段の併合罪であるとして、同法第四十七条第四十八条第二項等を適用したのは、その理由にくひちがいがあるばかりでなく、ひいて判決に影響を及ぼすことの明白なる法令の適用に誤があるものというべく、原判決はこの点において、破棄を免れない。

よつて、論旨量刑不当の点については後記破棄自判において判断を示すところであるから、こゝではその判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により更に判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は政府の免許を受けないで、焼酎を製造するため、先ず、昭和二十四年一月二十六日頃、肩書自宅において、米一石一斗、米麹五斗位、水若干を原料として、十数個の樽に仕込みこれを醗酵させて醪四石一斗を製造し、次いで、同年二月十三日同所において右醪のうち一石六斗を蒸餾して、焼酎三斗五合を製造したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示行為は昭和二十四年四月三十日法律第四十三号酒税法等の一部を改正する法律附則第二十一項同法による改正前の酒税法第六十条第十四条に該当するところ、情状により同法第六十条第二項により懲役刑を選択し、所定刑期範囲内において、被告人を懲役八月に処し、司法警察員佐藤末次郎が昭和二十四年二月十六日差押えた主文掲記の物件は本件製造に係る焼酎醪機械器具容器であるから、同法第六十条第三項によりいづれもこれを没収することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 黒田俊一 判事 猪股薫 判事 鈴木進)

弁護人諸留嘉之助の控訴趣意

第一原判決の判示(一)の所為は(二)の所為焼酎製造の原料である「もろみ」(諸味のこと)を造つたので濁酒を製造したのでなく焼酎製造の過程たる行為であるから独立の犯罪とはならぬので(一)、(二)の所為を包括して焼酎製造罪が成立するのであつて原審の事実認定は失当である。之を二罪として刑法第四十五条前段の併合罪と認め同法第四十七条同第十条同第四十八条第二項を適用し加重して処罰したのは事実の認定及び法条の適用を誤つたものである。此のことは昭和二十四年二月十六日石狩川税務署収税官吏大蔵事務官寺沢正同高橋直幸等が作成した被告人に対する調書(五〇丁以下)に濁酒製造後の処置に就て述べ其の間に対し被告は濁酒の出来た上は全部蒸餾器により蒸餾し焼酎を製造し知合ひの者を尋ね大体一升五百円程度で販売する心算でありましたとあり。

以上の問答でも本件濁酒の製造は焼酎製造の過程で焼酎を造るに欠くことの出来ない行為であること明白なのに是れを二個各別の犯罪行為と認むべきものでないと信ず。隨て刑の量定重いこと明白であると信じまする。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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